建築設計。地域別の地震力、そのままでいいの?

建物を構造計算するときに用いる

地震力の係数には地域差があるが、

その地域差は妥当なのか?

 

『表1』を見てほしい。

 

『表1』:損害保険料率算出機構の資料
朝日新聞紙面からの転記。

 

『表1』は、

地域別保険料率を保険料が低い物から

1等地、2等地、3等地の

3つの地域に分けてる。

(2019年1月改定)

 

 

次に、

『表2』を見てほしい。

『表2』:2007年版
建築物の構造関係技術基準解説書からの転記。

 

『表2』は、

建物の構造計算を行う場合に

*参考とする地域別の係数。

 

地域別に

地震力を0.7から0.9まで

低減することが出来る事になっている。

(地震地域係数の1.0の地域は低減がない地域)

(昭和53年建設省告示)

 

 

『表1』(地域別地震保険料率の表)と同様に

『表2』(地震地域係数)も地域差がある。

 

地震保険の料率は、政府の地震予測をもとに、

被害のシュミレーションをして保険料の基準を

決めている。

 

それに対して、

建築の計算時に用いる地震地域係数は、

「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」から、

『多くの研究成果から、それらを統計的に処理し、

工学的判断を加え行政区域ごとに振り分けて、

地震地域係数Zは定められている』と記載されている。

 

『表1』は地震の被害予測で単に建物単体の

耐震性だけでなく、津波や地震により発生する

二次的被害も含んでいると思われる。

それに対して、

『表2』は建物単体の地震力に直接影響する。

 

『表1』と『表2』を単純に比較することは

出来ないが、

以前より、『表2』の係数の根拠に

疑問を持っていたので、今回は

あえて強引に比較してみたいと思う。

 

建物設計時の地震力を安全性の見地から

『表2』を見た場合、

例えば、北海道などは0.8,0.9

1.0となっているが、

『表1』では全地域で保険料率が一番低い

1等地となっていて特に違和感はない。

 

それに引き替え、表に矢印で示した「高知県」は、

南海地震での被害が想定されていて

『表1』では保険料が一番高い3等地となっているが、

『表2』では0.9(地震力を10%低減しても良い

事になっている)となっていてすこし違和感を覚える。

 

特に『表1』と『表2』で扱いが違うと感じるのは

表に矢印で示した「沖縄県」だ。

「沖縄県」は、保険料が中間の2等地だが、

設計の地震力では0.7(地震力を30%低減しても良い

事になっている)となっている。

 

地震地域係数が0.7の地域は「沖縄県」だけで、

実態は何らかの行政判断が絡んでいるようだ。

実際に沖縄では震度5弱を観測した地震が、

2010年に沖縄本島の近海で発生している。

沖縄県だけが、

他の地域に比べて建物に与える地震の被害が極端に

少なくて良いとは思えない。

 

また、3年前に震度7を2回記録した熊本の地震で

被害があった地域の地震地域係数は

0.9または0.8である。

 

実際は日本全国どこでも

地震により建物に被害が出る可能性があると感じている。

そして、地域により地震力に差を与えることに

疑問を感じてもいる。

 

また、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」では

こんなことも書かれている。

「・・・・。実際の設計においては建築物の周囲の状況や
最近の地震動予測に関する情報等を考慮し、
必要に応じてZ(地震地域係数)を割り増す等の
措置を行うことが望ましい。」

という文言で地震地域係数の解説を締めくくっている。

 

このブログで、

地震地域係数は

「建物の構造計算を行う場合に

参考とする地域別の係数。」と上記した。

 

参考とする」と書いたのは、

地震地域係数で地震力を低減できる地域でも

設計者の判断で低減しなくても良いからだ。

 

それどころか建築物の構造関係技術基準解説書では、

「地震地域係数)を割り増す等の

措置を行うことが望ましい。」とまで書いてある。

 

しかし、

低減しないことにより工事金額や

設計の手間(金額)に影響が出ることを

法規で「低減できる」という法規という

お墨付きを得ているのに、

あえて行う企業や個人がどれほどいるだろうか。?

 

 

今回、

地震地域係数を一つの例として取り上げたが、

一度何らかの事で決まって「慣例化」しているものについて、

疑うことを怠っていないか?

思考停止になっていないか?

考えることも必要ではないかと思いますね