最近読んだ本「椅子クラフトはなぜ生き残るのか」

この本を選んで読もうと思った理由は、

クラフト(工芸)のような労働集約的で非効率な産業が

なぜ生き残れるのか?知りたかったから。

 

それは伝統的な木造の技術もクラフト(工芸)とは違うけれど、

労働集約的で非効率という共通した構造があるからでもある。

 


社会経済学的観点から椅子クラフト(工芸)という

現在も進行している新自由的経済活動は、タガが外れた自由競争により

少数の勝者と多数の敗者が生まれた中にあって、

労働集約的で非生産的に見える経済活動が生き残れるか?、

という問いに、経済学のスキルを持たない

自分にどのようなことを教えてもらえるのかを期待してである。

 

それというのも、日本の住宅は太古から江戸時代まで

主にを材料とした木造建築で造られている。

そして木造建築は輸入木材、耐震性の向上による金物工法、プレカットの普及

など紆余曲折をへて現在の木造住宅まで受け継がれている。

 

日本の国土の大部分を森林が占めていて木材の良材が多く、

種類も豊富で建物の適材適所に様々な樹種を選定できるし

加工もしやすい、ということで、

ほぼ100%といっていいほど建物が木造だったのは、

木材以外ほかの材料を選ぶメリットが少なかったからだと思う。

そして日本ではクラフト製品としての椅子も、が選ばれるケースは多い。

 

太古の昔から続いてきた伝統的木造文化が100年後、200年後に

細々と残っているのではなく、技術革新により伝統的木造の快適性や安全性が

進歩し、古い建物を手当てしながら使い継ぐという建築文化が普及することを望んでいる。

 

輸入木材でなく地場の木材特性を生かし、なるべく金物に頼らず、

大工の手仕事での加工で造られる伝統的な木造建築は、現在の木造から見れば、

伝統的木造はクラフト(工芸)に近いと言ってもいいと思う。

伝統的木造が経済的にも普及することの手がかりが得られると期待したいからだ。

 


私の感想

大量生産が中心の、規模の経済を追求する効率的な経済社会の中にあって、

なぜ小規模生産の椅子クラフツ生産が継続してきているのだろうか。

現在の椅子クラフツ生産は、小規模事業所のシェアが増大しているといえるが、

小規模事業所では生産性が低く、労働集約的で、費用と収益のバランスを崩し、

恒常的な赤字体質がとなっている。

 

大規模事業所では生産性の上昇が不可欠だが、

小規模事業所は生産性の上昇がなくても経営を維持できるという特徴がある。

また企業のメセナ活動や政府の文化援助によって、直接的な影響も受けている。

そして大規模事業所とは生産性の違いなどにより、間接的でかつ構造的な影響を与え合っている。

 

クラフツ生産の特徴として、

1、クラフツ生産が小規模生産であることからもたらされる「柔軟な対応が可能」だということ。

2、クラフツ経済は原材料地と消費地の中間に位置し、複数の経済主体が連結・結合される「集積の利益」をもたらすことだということ。

3、クラフツは大量生産の分業体制とは違い、職人経済特有の小規模で内部完結する自己完結的で自己目的的な特性があり、疎外からの脱却を目指すということが考えられる。

クラフツ生産では一般的に、収益が費用を下回る赤字が「成立不可能性」を生んでいる。

しかし椅子クラフツ生産を成立可能にする社会文化的な助成には、

手作りであることで生まれる「有益な失敗」(機械生産では得られない不均一性の美など)や「社交効果」(生活

文化環境の補完物として補管完体の形成に寄与する*ディドロ統一体を生む)などがる。

 

*ディドロ統一体:ディドロ効果(一つの品物が周り全体へ影響を及ぼす)

一つの品物がその品物と調和するような全体が形成され、生活が営まれる。

 

今後も「椅子クラフト」も「伝統的な木造」も細々ながら続いていくと思う。